【レポート】墨東まち見世編集塾第2回:墨東について知る

墨東まち見世編集塾 公開レクチャー+トーク
第2回「墨東について知る」
日時:2012年9月1日(土)14:00-17:00
① 過去の資料を読み解く:曽我高明、真野洋介(向島学会)
② 墨東まち見世の現在地:ちっち+木村健世と墨東文庫編集室、「どこにいるかわからない」展実行委員(墨東まち見世2012特別企画参加者)、墨東まち見世事務局
「墨東について知る」と題された今回は、“過去”と“現在”という2つの視点から墨東エリアに迫っています。
ゲストには、“過去の資料を読み解く”編として、向島学会のメンバーで長年この地域の活動に携わってきた現代美術製作所の曽我高明さんと、東京工業大学准教授の真野洋介さん。
さらに、トーク後半の“墨東の現在地”編では、ともに「墨東まち見世2012」の公式企画である「『どこにいるかわからない』展」と「ちっち+木村健世と墨東文庫編集室」から、それぞれの企画者をお迎えして進捗状況を紹介していただきました。
9月といっても名ばかりで、立っているだけで汗が吹き出してくるこの季節。
それにも関わらず、決して広くはない墨東まち見世案内所は、20数名にもなるたくさんの方の熱気(単に体温かも…笑。)に包まれました。
墨東地域にお住まいの方、普段から墨東を拠点に活動されている方、そして初めて訪れる方・・・。
いつもとは少し趣が異なるその賑わい様に、商店街の道行く人も、不思議そうにちらちらと、時にじーっと目を止めていくようでした。
さて、いよいよトーク開始。
とその前に、このトークを機に、曽我さんと真野さんから貸していただくことになった資料について触れておきたいと思います。
トークが始まる前、数人の手と車によって運び込まれた段ボール2箱分にもなる墨東に関する資料。
書籍や雑誌、論文に当時のパンフレット・・・あまりに豊富な資料を目の前に、まずもって墨東エリアにおける活動の歴史と編集の蓄積を痛感させられました。
編集部員である私は、これらの資料が編集部の作業を救ってくれる!という期待と同時に、既にハードルが上がっているのでは・・・という何とも複雑な気持ちで圧倒されてしまいました。
最初に話をしてくだったのは、東向島の駅の近くで現代美術製作所というギャラリーを運営する曽我さんです。
現在、向島学会の副理事でもあり、墨東まち見世の事務局もされている曽我さんは、長きに渡ってこの地域に携わってきたお一人でいらっしゃいます。先代から続くゴム工業の町工場を改装して1997年にギャラリーを始めて以来、その活動は次第にもともとあったまちづくりの動きとつながりながら展開するようになったのだそうです。
木造密集地域を有することから、京島まちづくり協議会や東向島地域の一言会、まちづくり才団・川の手倶楽部など、既にまちづくりの動きが盛んであったこの地域。そうした背景に空き家を活用する建築方面からのアプローチも相まって、1998年「向島国際デザインワークショップ」を皮切りに、アートなまちづくりが広がりをみせていきました。そして2000年に行われた「向島ネットワーク」、「向島博覧会」でその動きはさらに広がり、アートとまちづくりはますますつながっていくようになりました。2002年には向島学会が設立され、その後も2003年「アサヒアートフェスティバル」への参加、2004年「向島year」、2005年以降の「墨東アートまち大学」、2007年「向島芸術計画2007」など・・・ここには書ききれないほど多様なアートプロジェクトを経て、徐々に徐々にまちにアートが定着してきたのでありました。そして、そのネットワークが活かされる形で、現在の「墨東まち見世」へとつながっていきます。プロジェクトが徐々にイベント型からプロセス型に変化してきたのも、こうした数々の経験を踏まえてのことだったそうです。
一方、「向島博覧会アートロジイ2001」をきかっけに墨東エリアで活動を続けてきた真野さんは、建築がご専門で、まさに防災まちづくりのケーススタディーを目的にこの地域に入ったお一人でした。当時から、まちを壊して建て替える防災まちづくりのあり方に疑問を抱き、それとは違う防災建築のあり方を技術的に模索していたのだそうです。そんな時にこの地域で目にしたアーティストの動きは、これまで想像しなかった刺激的なものであったといいます。空間そのものを壊すのではなく、人とつながりながらそれを生かす形で変えていく。アーティストのそんなあり方に、真野さん自身、気づかされた点も多く、まちづくりに対する視野を広げるきっかけになったと語ってくださいました。アーティストがどのようにまちを見て、空間を変えていくのか。特に、物理的な変化にとどまらず、人々がどのようにつながってその動きを繰り広げていくのかという点に強い関心を持つようになり、聞き取りやワークショップから考察・分析を重ねたのが2002年~2004年だったそうです。
その後、2005年以降もテーマを変えつつ、講座やまちあるきなどを組み合わせたワークショップを行なったり、鳩の街に拠点をおいて「鳩の街プロジェクト」に携わるなど、継続的にこの地域に関わり続けてきた経緯を教えていただきました。
曽我さんとのかけ合いの中でかつてを思い出すように広がる話題も多く、当時の熱気を想像させてくれる大変貴重な機会となりました。
休憩を挟んだ後半は“墨東の現在地”を探るべく、「墨東まち見世2012」の4つの公式企画のうち2組をお迎えし、企画内容と進捗状況をお話しいただきました。
「どこにいるかわからない」展は、八広にあるSOURCE Factoryを拠点に数々の作品を制作・発表している現代アーティストの下平千夏さんと、墨東まち見世2009にサポーターとして関わったことを契機に様々な立ち位置でアート活動を続けてきた大橋加誉さんによって運営される企画です。SOURCE Factoryと曽我さんが運営する現代美術製作所を結ぶ道中に作品を展示していくというもので、この時点で既に9組の若手アーティストの招聘が決まっているとのことでした。彼・彼女らのどんな作品が展示されるのか、そしてそれがまちとどのようなシンクロを見せてくれるのか、とても楽しみな展覧会です。
一方の「ちっち+木村健世と墨東文庫編集室」は、2010年のまち見世から「墨東文庫」プロジェクトを続けてきたアーティスト木村健世さんと、「墨東文庫・鳩の街編」の制作を機に一般参加ワークショップで立ち上がった墨東文庫編集室、そして紙芝居屋ちっちさんによって運営される企画です。「墨東文庫」とは墨東エリアに散りばめられた日常の物語を小説として見立て、文庫目録にまとめたプロジェクトで、これまでに京島エリアと鳩の街エリアでの取材をもとに2冊の文庫が発行されています。今年はその「墨東文庫」に収録されている物語を紙芝居屋ちっちさんとともに紙芝居化し、街頭での口演を行うとのこと。紙芝居化にあたっては製作メンバーを募り、ワークショップ形式で実施するそうです。まちに「文庫」として眠っていた物語が「街頭紙芝居」として生まれ変わる時、どのような空気が生まれるのか。2010年から時間をかけて紡いできたプロジェクトだからこそ見えてくるものがあるかもしれないと、期待で胸が膨らみました。
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長年、積み重なってきた様々な墨東の活動に対して、3時間という時間は短すぎたかもしれません。
それでも、ゲストの方々による丁寧な説明によって、その変遷を想像し、“知った感じ”になることができたという意味で、とても貴重な時間であったと思います。
じわじわと、でも休むことなく続けられてきた墨東地域の活動。
それらが広くゆるくつながる形で積み重なり、現在のまち見世2012まで続いていることがうかがえました。
ゲストの皆さん、ご参加いただいた皆さん、どうもありがとうございました。
(担当:及川裕子)
第3回は9/30に開催します!→詳細

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