【レポート&新スペース紹介】妄想自転車部カフェ&となり製作所

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ここ数年、かき氷といえば自転車が当たり前になってしまい、量販店などでプラスチックでつくられた自動かき氷器を見るたびに違和感を感じてしまいます。どちらかといえば、自転車でかき氷をつくることの方が不思議なはずなのに。逆転してますよね。まあ、楽しいからいいです。

今年もかき氷自転車の季節がやってきました。2016年最初のかき氷自転車は、最近話題のやひろ食堂…の隣にある「となり製作所」で稼働。自転車部の「妄想自転車部カフェ」という定番イベントのいちコンテンツです。自転車部は自転車に乗る部活動ではなく、自転車をつくる家庭科系部活動です。自転車を愛してやまない大人たちが「こんな自転車あったらいいのに」という妄想を現実のものとしてしまう、夢のような部活動です。過去に現実にした妄想は「かき氷自転車」と「珈琲ミル自転車」。珈琲ミル自転車はver1とver2を作っているので合計で3種類の自転車を作っています。この夏最初のイベント「妄想自転車部カフェ」では、かき氷自転車と珈琲ミル自転車(ver2)が登場しました。

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自転車部としてはですね、様々な自転車を体験してもらうのも目的なんですが、オリジナル自転車の妄想をしてもらうことも大事な目的でした。妄想を描いてくれたら100円引き、だなんて謳い文句でふらりと訪れた人を巻き込みます。となり製作所は水戸街道という大きな通りに面しており、かつ近所にはやひろ食堂という最近話題の食堂、キラキラ橘商店街という観光客にも地元にも愛される人気商店街があるため想像していた以上の人がイベント会場のとなり製作所前を通っては「何だ?何をやっているんだ?」と言わんばかりの表情で立ち止まります。

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といってもお客さんの多くは、自転車部の知り合いや近所も近所、裏手にお住まいのご老人くらいです。それでも写真から伝わるような賑わいはず〜っと続いておりましたよ。賑わいアピールではないです、事実です。最近高知に移住した自転車部部長の土谷さんが久しぶりに東京にいらっしゃったということもあり、土谷さんを慕って様々な方がいらっしゃいました。完全手作りラーメンを営まれている方、靴職人、アートマネジメント関係の方々などなど。それぞれが昔話や近況話に花を咲かせながら、本格的な製麺自転車など妄想を描いてくださいました。

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美術家のお手伝いから帰国した自転車部メンバー二人が空港からそのまま駆けつけてからまた会場は大盛り上がり。うるさいほどに妄想を膨らませて絵巻物に筆をはしらせます。あっという間にイベント終了の時間となりました。ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。

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さて、今回はどんな自転車のアイデアが生まれたのでしょうか。車輪がまわるとLEDで般若心経が浮かび上がる「供養自転車」、ブランコをこぐと走る「ブランコ自転車」、全身象牙でつくられた「象牙自転車」、動物の角を模した自転車、豚の丸焼きができる自転車、などなど。覚えているだけ書き出してみました。こんなの普段だったら思いもつかないような自転車アイデアですよね。

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実際にこれらの中から現実のものとなる自転車はあるのでしょうか。乞うご期待!…だなんて煽ってもいつできるかわからない、ゆるい家庭科系自転車部です。まあ皆さまのんびりとお待ち下さい。もしかしたら忘れたころに新しい自転車のお披露目をするかもしれません。

(自転車部 ヨネザワエリカ)

 

【レポート】八広HIGHTIにノルウェーのチューバ奏者の演奏を聞きに行きました。

八広HIGHTIというスペースが京成八広駅から歩いて10〜15分くらいの荒川沿いにあります。川沿いを、「関東大震災時 韓国・朝鮮人殉難者追悼之碑(※)」の横を、産業廃棄物系の工場の横を歩いてしばらく進むとそのスペースが2階にある工場の前に到着します。

10年以上も、いわゆる「オープン」なスペースとは少し違った(というと語弊があるかもしれません。興味を持っている人にとってはオープンな場所です。ふらっと立ち寄ることができる場所ではないという意味)表現の場として長く活動されている八広HIGHTI。1度でも足を踏み入れると忘れられなくなる場所です。その場所に蓄積された表現の欲求の痕跡。痕跡というと終わったもののような言い方ですね。それは違います。そこにある全てのものが何かの表現のきっかけでもあり素材でもあり痕跡でもあるような。そういう場所。そして、そこで行われるイベントもまた忘れられません。

リビングルーム、というか中心のライブスペース

今回は八広HIGHTIのメインメンバーでもある矢代諭史さん神田聡さん(ダブルさとしだ…)のデュオのライブ、そしてノルウェーのチューバ奏者Martin Taxtさんのライブでした。

例えばドラムのカウントから前奏がはじまってAメロBメロ、サビがあって間奏、そしてまたAメロBメロがきて最初のサビとは少し違ったアレンジのサビが続き、Cメロの後に最後のサビ、大盛り上がりで曲が終わる、のようなものが、ライブであり演奏であり曲だ、と思っているとその考えを覆されます。

発泡スチロールがゴムでこすれる楽器 

必死にマックを立てる神田さん

以前、三ノ輪にあるspace dikeでアーティストのbikiさんが「焼き肉をするのも演奏だ(ライブだ、だったかな)」とおっしゃっていたのを聞いたことがあります。だから矢代さんがコンセントをしきりに付け替えたり、電気の通った楽器がキリキリと音をたてたりクシュクシュと音を立てたり光を発したりするのも演奏にあたるでしょう。神田さんがいくつものデスクトップパソコンを立てたり重ねたり吊るしたり落としたりするのも演奏にあたると思います。もちろん音声や画面が周辺の情報を元に作られていったり干渉しあったりする様子もまた演奏です。予想外の、というとありきたりですが、いくつもの音が重なりあって何か物語を想像させるきっかけを作ろうとする、煮え切らない状態のまま演奏が続くデュオの演奏は素晴らしいものでした。

つるす 

立った!マックが立った! 

倒れた!

休憩が入り、Martinさんの演奏が始まります。チューバソロ。どんな音楽を奏でてくれるのだろうかと期待が高まります。

管楽器は演奏者の呼吸がそのまま音になります。サックス、トランペット、フルート、ピッコロ、オーボエやファゴットやクラリネット(は木管かな…)、ホルンやチューバ。これら楽器の音は演奏者の呼吸そのもの、つまりより声に近い音を発します。声の力が楽器を通じて拡張している、というより楽器に憑依した声の力が、管楽器の演奏から感じることができます。

さて、そんな管楽器であるチューバを、Martinさんは、倍音(ホーメイ)で吹きました!!これはやばい。「やばい」なんて抽象的な表現、お恥ずかしいですがもうこれしか言えないです。重ねてお恥ずかしい。

呼吸そのもの、発声そのものが想像の域を越えていたMartinさんのチューバ演奏は、今まで聞いた中でも最高のものでした。呼吸というよりも空気の流れに近い音を出す奏法、音階やチューバ的な音そのものを放棄して呼吸がチューバの太く長い管を通る音そのものを聞かせる奏法、チューバのベルを観客に向けて空気の圧をそのまま出す奏法など、初めての体験ばかり。音が空気の振動だというならその振動に体全体が揺らされ魅了されてしまいました。あっという間に終わったライブ。写真を撮るのを忘れるくらい。もっと聞いていたいと思う反面、長い間聞いてしまうと別の世界に心が閉じ込められてしまうんじゃないかと思うほどに力のある演奏でした。

演奏が終わって、ふるまわれた朝掘りの筍ご飯を食べて歓談。こういった八広HIGHTIのような表現の場が、これからどうなっていくのか楽しみです。

矢代さんが今回使った楽器たち

※ 大正12年の関東大震災時に下町一帯で殺害された韓国・朝鮮人を追悼するため建てられたという慰霊碑